top of page

[2]観・マインドは教えられるものか?


Q:―――観やマインドといったものは“教え”られるものか?

知識や技能であれば、それは他者が“教える”(教授したり、伝授したりする)ことができます。

しかし、一人一人の内面の底に横たわる観やマインドは個性であって、多様でよいものです。そこに唯一無二の正解値はありません。したがって、それを“教える”ことはできません。

一人一人の第3層(=観・マインド)に焦点を当てる研修においは、何かを“教える”というのではなく、何かを“気づかせる”というものです。講師が短い研修時間の中でせいぜいできることは、“酵母菌をまく”ことくらいです。

つまり、酒や醤油の醸造において、発酵という変化を起こすためには、“酵母菌”が不可欠です。しかし、その変化において、みずから熱を発し、質的変化をしていくのは主原料である米自体、大豆自体です。

ですから、私はその酵母菌となるような思考の材料、思索のヒント、行動の刺激を講義やワークの中に収めてプログラム化するよう努めています。

Q:―――例えば、どんな“酵母菌”をまいて観を醸成させるのか?

下のシートは「成長とは何か」を自分の言葉で定義するワークで使うものです。

成長の辞書的な意味はだれでも知っています。しかし、このワークでは客観的な語句説明を求めているのではありません。そうした客観的説明を超えて、自分の経験や認識から本質を引き抜き、主観的・意志的な言語として表現してほしいのです。そこにこそ、各々の「成長観」というものが浮き彫りになってきます。

ワークシートは次の4つの作業になっています。

 作業1:成長体験を思い浮かべる   ↓  作業2:言葉で表わしてみる   ↓  作業3:絵や図で表わしてみる   ↓  作業4:行動習慣に落としてみる

では、実際、どんな答えが出てくるのでしょうか。例えば作業2の言葉による定義の答案例をみてみましょう。

このように成長の定義は人それぞれに出てきます。このワークを企業内研修でやる場合、受講者にとっては「同じ会社の中でもこんなに成長のとらえ方がいろいろあるんだ」という刺激になります。

また、各自の定義をグループで共有すると、「自分のとらえ方は浅かったな」とか「あの人の表現は本質を突いているな」とかがよくわかるものです。そして社内には実は成長の機会がたくさんひそんでいるという気づきにもなります。

観を醸成する研修で重要なのは、いかに受講者どうしで気づき合い、学び合う場ができあがるかということです。講師が大上段から「こうだ・こうあるべきだ」というより、受講者どうしのアウトプットの中で、「あ、自分の出した答えは見方が浅かったな」とか「あの人はとらえ方が深いな、熱いな」とか「自分の考え方は少し偏っているな」などの気づきができることが一番受講者本人にとって効くプロセスなのです。

さて、このワークの一連の作業は次の思考フローを意図して設計しています。

 1)抽象化(引き抜く)     ↓  2)概念化(とらえる)     ↓  3)具体化(ひらく)

この流れを私は、その形から「π(パイ)の字思考プロセス」と呼んでいます。具体次元と抽象次元を盛んに往復運動させることによって、観・マインドをつくっていく仕組みになっています。

観の分厚い人というのは、豊かな経験を持ち、そこから本質的なことを引き抜き、自分の言葉やイメージで独創的に表現ができます。そしてそれをもとに具体的な行動に展開することができます。

逆に、もしこのワークをやってみて、成長経験がうまく思い出せない、成長をうまく定義できない、そして行動にも落としづらい、というのであれば、おそらく成長観が弱いのでしょう。

観というのはものごとの見方・とらえ方です。観は知識や技術よりも下層にあって、自分の仕事・キャリアの“あり方”に大きく影響を及ぼします。

漫然と忙しく働いているだけでは、仕事・キャリアが思うように進化/深化していかない状況に早晩突き当たります。特に30代以降、仕事・キャリアは、単純に知識や技術面の習得だけでは打開できない“あり方”が問われるフェーズに移ってくるからです。

観を土壌として、方向軸となる志を定め、モチベーションの源泉となる意味を掘り起こし、そのうえで知識・能力を生かしていく。そういうどっしりとした構えができる人が、持続的に自分の世界を押し広げていくことができます。「自律的」であるとは、まさに観・マインドを強く醸成した状態をいいます。 【補足記事】 * * * * * * * * * *

□ 「自立」と「自律」の違い  http://careerscape.lekumo.biz/genron/2013/09/post-7d4b.html

□ 自律と他律 そして“合律的”働き方 http://careerscape.lekumo.biz/genron/2013/09/post-1720.html


研修開発の考え方
bottom of page